耽美主義に救われてた私が耽美主義を広めるためにおすすめ耽美文学を紹介します。
1.耽美主義の魅力
耽美主義(たんびしゅぎ、英: aestheticism)は、道徳功利性を廃して美の享受・形成に最高の価値を置く西欧の芸術思潮である。
Wikipediaより
「美に耽(ふけ)る」。読んで字のごとくただそれだけです。
めちゃくちゃ端的に言うと「美=最高」という考えをして、「美」だけのことを考え、「美」というものに毎日うっとりします。
ただそれだけ。ちなみにここでいう「美」は、「無価値・無内容」なもので、表面的なものです。ここがミソ。
なぜかって、あなたは耽美主義者になれば「無価値」で「無内容」でもいいんです。
美しさに浸っていればいいんです。
「人生の意味は…」とか「私の存在価値って…」とかそんなこと考えなくてすむんです。めちゃくちゃ人生の難易度低いです。
「美=無価値=最高」。これが耽美主義です。
今回は私のこの基準で耽美文学を選んだので、きちんとした基準の「耽美主義」には当てはまらないものもあります。
それでは耽美の世界へ…
2.私的オススメ耽美文学5選
太宰治『女生徒』
まあまあ平凡な女の子のある日の日常と、鋭い少女心理を綴った短編。
主人公がまあまあ平凡な生活の中で、小さいところに耽美要素を取り入れているので初心者向け。
家が貧困時代、友達と遊ぶお金もなく、洗濯とか掃除とかの家事に追われて、宿題やって、学校行って…
と生活感丸出しの日々を送っていた私は、それはそれは毎日「私の人生って…」とか考えっちゃっていました。
そんな時、ついに耽美主義との出会いを果します。ここです。
美しさに、内容なんてあってたまるものか。純粋の美しさは、いつも無意味で、無道徳だ。
太宰治『女生徒』.角川文庫
な!なんだって!?美しさは無意味!?
それまでにも谷崎潤一郎等数作品の耽美主義作品を読んでいた私ですが、この時やっと耽美とはなんたるかを理解しました。
そして、そのある意味楽観的な態度に強く惹かれていくことになるのです…。
谷崎潤一郎『刺青』
言わずと知れた耽美主義代表作家谷崎潤一郎のこれまた言わずと知れた代表作『刺青』。
主人公の彫師は、自分好みの女を見つけ、その女に自分の魂を込めるように刺青を掘る。
背中に蜘蛛の刺青が完成したとき、女は魔性の女に生まれ変わっていた…。
なんとこの『刺青』、たった14ページなんです。
これこそ耽美初心者にオススメしたい理由です。
というのも、耽美主義、結構な確率で話に起伏がないんです。それもそのはず、
作品の価値はそれに込められた思想やメッセージではなく、形態と色彩の美にあるとする立場である。
Wikipediaより
と、あるように、思想やメッセージを重要視していないのでしょうがないんですね。
しかし、耽美主義にはじめて触れる時、あまり長い作品に挑戦してしまうと、「なにこれ、つまんない…」と拒否反応がでてしまうかもしれない。
なのである程度短いものから読むのがオススメです。
特にこの『刺青』は完成された美文×圧倒的短さ、で完璧です。どうぞ耽美はじめに…
坂口安吾『桜の森の満開の下』
坂口安吾といえば『堕落論』。
『堕落論』しか読んでない人が読むとびっくりしちゃうようなもう一つの安吾の傑作がこちらです。
峠の山賊が、美しい女に一目ぼれして、恐ろしいまでの美に触れる短編。
桜の森の満開の下の秘密は誰にも今も分りません。
坂口安吾『桜の森の満開の下』
その下にひっそりと無限の虚空がみちていました。
坂口安吾『桜の森の満開の下』
この二つの文だけでも物凄く美しいですね。
そしてやはりここでも「美=虚空」という話が出てきます。
詳しい内容は割愛しますが、この作品は耽美文学の中でもかなりストーリーもはっきりしていて読みやすいのでオススメです。
また、この辺りで、耽美文学を読むのに「道徳」を放棄するのをオススメします。
道徳観を持ったままでは読めない箇所が出てきますので。
夢野久作『瓶詰の地獄』
『ドグラ・マグラ』で有名な夢野久作の割と読みやすい短編。
二人の可愛い兄妹が、事故で流れ着いた楽園のような島から海に流した瓶詰めの紙に綴られた地獄の日々。
ここで完全に道徳は失われます。
これが好きならもうあなたはこちら側の人間です。
私を完全にこちら側に引きずり込んだのはこの『瓶詰の地獄』でしたので。
これも14ページという短さで、耽美主義を煮詰めたような素晴らしい作品です。
神様からも人間からも救われ得ぬ
哀しき二人より
夢野久作『瓶詰の地獄』
江戸川乱歩『目羅博士の不思議な犯罪』
『人間椅子』『芋虫』などから完全にヤバイ地位を確立している江戸川乱歩。
この『目羅博士の不思議な犯罪』はめちゃくちゃ美しくてため息がでるようなお話。
怪しげな男が語る、「目羅博士」の怪しくも美しい犯罪の手口に圧倒。
月の光て、なんて変なものでしょう。月光が妖術を使うという言葉をどっかで読みましたが。
江戸川乱歩『目羅博士の不思議な犯罪』
この話は「月の光」の美しい魔力のようなものがキーとなっていて、それがものすごく美しいんです。
首吊りの姿が、少しも怖ろしくも醜くも見えないのです。ただ美しいのです。
江戸川乱歩『目羅博士の不思議な犯罪』
この辺りは耽美主義の神髄という感じです。「美しさ」こそが至高のものであって、それ以外なんて考えなくていいんです。
3.終わりに…注意点
今回は耽美主義初心者にも耽美主義を知っていただけるように書きました。
気を付けてほしいのはやっぱり、「内容を求めない」ということです。
ただ、文章の、言葉の、現象の「美しさ」だけを見つめて浸ってくださいね。
そうするとどんな現実にも立ち向かえるし、「内容や価値なんてなくてもいい」と思えますよ。
【中・上級編】はこちら→https://decadence666.com/tannbi-novel-5-2/